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○広葉樹と針葉樹

ドングリの樹、つまりブナ科の樹木達ですが、これらは広葉樹と呼ばれる植物です。
現在の日本の山林、特に人工林には杉や檜、つまり針葉樹が多く植えられています。これは戦後復興の用に当てるための材木として育てられたものです。
ところが時代が進みますと海外から安い木材が輸入されるようになり、我が国の林業は衰退してしまいました。輸入材との価格競争の結果、木材を売っても植樹や伐採にかかるコストを回収できない場合が増えたのです。結果、人工的に植えられた杉檜が手つかずで残るようになり、今日では我が国の国土面積の65%を占める森林面積のうち、実に四割が杉や檜の人工林であるとされています。
これらの手入れのされていない人工林は、後述する緑のダムとしての機能を失い、また、春になると大量のスギ・ヒノキ花粉を飛散させ、国民の三割超に及ぶ花粉症患者を苦しめます。いまこの文章を書いている担当者も花粉症なので、本音を言えばスギ・ヒノキの類は一本残らず引っこ抜いてやりたいところです。自然環境への影響が多すぎるので、さすがにそんなことはしませんが。
冗談はさておき、針葉樹の人工林が多すぎ、しかも手入れが行き届いていない我が国の山林の現状は、今のうちに見なおしておかなければならない問題であるように思われます。

○緑の砂漠

全国に広がる人工林。遠目に見ると、緑豊かな自然が維持されているように見えます。しかし機会があったら、是非中に入って足元を見渡してみてください。不毛な地面に驚愕することになる筈です。
森林は木々の他に、足元に生える草なども重要な構成要素です。上部を占める木々に対し、背の低い足元の植物を「下層植生」と呼びます。
先に述べた通り、我が国の林業は衰退してしまいました。結果として、人工林の手入れが思うように進んでいない地域が増えています。手入れとしては例えば間伐や枝打ちという作業があります。植樹する時は多めに苗木を植えますが、これが全部成長してしまうと過密状態になってしまう為、適度に間引いたり、枝を切ったりするわけです。
これを怠るとどうなるか。
皆さんも、樹の下で雨宿りをしたことがあると思います。密に枝が茂った樹は、根元に雨が注ぐのを防ぐ効果があります。本降りになれば勿論、枝葉で雨を防ぐことはできませんが、小雨程度では充分にシャットアウト可能です。地面に届かない雨水は枝葉に留まっていますが、これは樹木が利用できるわけではなく、そのまま蒸発してしまいます。
また、夏の日差しを避けて木陰の中で休息したこともあるでしょう。枝葉は日光も遮断します。
樹木にはそういう機能がありますが、これが必要以上にギチギチに植えられているとどうなるか。森林の地面には日光も雨水も届かず、下層植生が成長することが出来なくなります。これが、人工林の不毛な地面の原因です。結果として地面がむき出しの状態になり、土壌の流出を招きます。
また、針葉樹林ではあまり腐葉土が出来ません。これは針葉樹の葉が広葉樹のそれに比べ油分を多く含むためです。腐葉土が少ないので針葉樹林の地面はあまり水分を蓄えておけず、放っておくとパサパサになっていきます。
手入れのされていない人工針葉樹林の地面はこの様に、水分が少なく不毛な貧しいものとなっている場合が多々あります。このような状態を、「緑の砂漠」と呼びます。

​勿論、広葉樹であるドングリの木を植えても、手入れをしなければ同じことになりますが。

○緑のダム

日光や雨水が地面に届かない問題は、適切な手入れを行い、樹木が過密にならないようにすれば改善できます。
腐葉土の方は、針葉樹を減らして広葉樹に置き換えて行く、というのが解決策の一つです。
腐葉土は高い保水能力を持ちます。ですので、腐葉土が豊富にある森林は、降った雨を蓄え、それを少しずつ地上・地下の水脈に放出するという、さながらダムのような調整能力を期待できます。ただ腐葉土を積んであるだけでは、大雨が降れば土壌が流出してしまいます。他方で下層植生が発達した健全な森林では、それらの植物の根が土壌を捕まえていてくれるため、流出は抑えられます。

さらに、ドングリの木は針葉樹に比べて深く根を張り、土壌層の下の岩盤層に亀裂があれば、そこまで根を食いこませます。また森林の植物の根は複雑に絡み合い、あたかもマットのような状態になります。つまりドングリ林の根系は、岩盤に杭で打ち込まれたマットのようになるわけで、土壌流出を大いに防止、土砂崩れの発生確率も下げます。
また、腐葉土が多い森に降った雨は、腐葉土の成分が溶け込んだ状態で川に流入します。つまり、栄養豊富で生物を育む豊かな川や海を形成する役目も果たすのです。
森林にはこのように水害・土砂災害を防ぎ、豊かな水を産みだす役割を持ちます。これを「緑のダム」と称します。

○ドングリの植樹

既に述べた通り、ドングリのなる樹は広葉樹であり、その落ち葉は腐葉土になります。
また、ドングリの仲間は広く深く根を張る性質があり、土壌保持に一役買います。
さらに、ドングリは多くの動物のエサともなります。リスやムササビなどの小動物の他に、ツキノワグマやイノシシなどの大型動物もドングリを好んで食べます。山林にドングリが多ければこれらの動物が暮らしていく上で大きな助けとなり、また、人里に下りて来て人と接触してしまったり、畑を荒らしたりする可能性も減ります。
つまり、上で述べた緑のダムの形成に大いに役立つ植物であり、これを植樹することは豊かな森林・豊かな水資源・豊かな海を作り、維持することに繋がります。
ドングリバンクではこの目的により、ドングリの植樹、及びドングリ林の維持管理事業を行います。

​ドングリ林と言ってもドングリ以外の植物を排除するわけではなく、目指すべきはドングリの樹を中心に、杉も含めて様々な植物が混生する、豊かな生態系を維持する針広混交林。いわゆる雑木林です。

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